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新・デジタリアンの散歩道

デジタリアンが取材したデジタルなニュースをお届けしています。

エンジニア  3Dプリンター活用で大ヒット商品「ネジザウルス」を産み出す  副産物のルーペ「ムッシュ・マグ二」も

◆エンプラとも呼ばれるPBT樹脂で作られた変幻磁(自)在な使い方が出来るルーペ「ムッシュ・マグ二」。手に持たずに使える拡大鏡として、今、静かな話題を巻き起こしている。女性が自分の爪にネイルを施したり、工具に取り付けて細かな作業をするのにも重宝すると喜ばれている。大阪市東成区に本社を置く工具メーカー、エンジニア(高崎充弘社長)の製品である。実はこれ、同社の大ヒット商品であるスーパーペンチ「ネジザウルス」を開発する際に使っている3Dプリンターで作られたものなのである。モノづくりに欠かせない試作品造りだが、同社ではその製作時間を短くしたり、コストを抑えるために3Dプリンターが活躍する。ネジザウルスの試作品造りに導入されたITツールが、意外な副産物を産み出したのである。

 

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両手にネジザウルスを持つ高崎充弘社長

 

 ムッシュ・マグニは大ヒット商品「ネジザウルス」が産み出した、と言ってもいいかもしれない。強力磁石が付いたそれは、自由に形を変えることができるルーペとして売り出された。同社が販売する工具にも装着でき、手で持たずに使えるルーペであり、作業の便利ツールとして注目されている。レンズの倍率は3.5倍だから、細かな作業も難なく進めることができる。しかも折り曲げられるので、コンパクトに収納して持ち歩ける。

 これは同社が3Dプリンターを使って作った製品第一号なのである。
同社は2010年に初めて3Dプリンターを導入している。その目的はネジザウルスの試作品造りだった。エンジニアの主力商品であるスーパーペンチ「ネジザウルス」は、誰もが困っていた頭が潰れたり、錆びたネジを外すことが簡単に出来る工具である。

 

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最新のネジザウルスGT

 

 恐竜のように(ネジに)噛みついたら離さない。<スーパーペンチ>と呼ばれる理由はそこにある。02年に初代のネジザウルスが誕生し、4代目のネジザウルスGT(09年発売)は頭がより平たいトラスネジでも外せるまでに進化している。こうしたことから初代から10年間ほどで、累計販売本数も200万本に近づく大ヒット商品になった。

 

ヒット商品の陰に「MPDP理論」

 

 ヒット商品への陰にはゆるキャラ戦略などプロモーション(P)の力も大きい。

 今年もたくさんのオタッキーな若者たちで賑わった「日本橋ストリートフェスタ」では、歩行者天国となった大阪・日本橋の電気街は、コスプレファンなどが自慢の変身ぶりを競い合っていた。そこでひときわ人目を引いていたのが、大きなペンチを持ったネジタリアン恐竜「ウルスくん」であった。

 これはエンジニアがネジザウルスを普及させるために作ったキャラクターなのだ。13年の「ゆるキャラ グランプリ」では、企業・その他の部門で14位にランキングされた全国区の人気者になっている。


 ヒット商品作りにはそうしたプロモーションばかりではなく、マーケティング(M)やパテント(知財戦略、P)、デザイン(D)戦略も欠かせない。同社はそうしたヒット商品作りの要素を総合して「MPDP理論」と呼び、実践してきた。3Dプリンターの導入は、その一環なのである。

 

IT技術がヒット商品を作る

 同社が製品(工具)を作る際にはまず、試作品作りから始める。従来は3DCADで強度から作業時のバランスなど、機能性と安全性をチェックすることで、より優れた試作品造りを行っていた。しかしさらに速く試作品を作り、しかもコストを下げる工夫を模索していた。

 高崎社長は常々「もっとコストを下げて、さらに速く試作品を造りたい」と望んでいたが、現場からは「現状の設備では、社内でも外注でもこれ以上は限界」といった声が返ってくるだけで、改善は難しかった。

 

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試作品造りに活躍する3Dプリンター

 

 そこでその課題を解消するために導入したのが、3DプリンターというIT機器だったのだ。
 今は2代目の3Dプリンターが導入されているが、初代が入ったのは10年だった。3Dプリンター造形ソフトを使って作ったデータをプリンターへ送信するだけで造形できるというものだ。プリンターが造り出す造形物を置くプレートの広さ次第だが、広ければ同時に何種類も作ることが出来るという。

 今までは3DCADで作成したデータをもとに社内で試作品を手加工したり、機械加工を外注していた。いずれも製品の大きさを確認したり、実際に切断力をテストするためのものである。手加工ではネジザウルスの刃は鉄板を切って加工していた。外注では刃もグリップもすべて社外の力を得ていた。

 

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3Dプリンターで作った試作品(中央)と以前の試作品

 

 社内での手加工のほうがコストは低いし、製作時間も半分で済む。しかし品質は外注よりも低い点は諦めなければならなかった。
 ところが3Dプリンターを導入することで、短時間で高品質の試作品を造ることができるようになった。コストは機器の導入に要する費用はかかるものの、それを差し引くと安く抑えられるようになる。とくに品質面では外注機械加工品を上回り、金型量産品とも遜色ないものを造ることが可能になった。

 高崎社長はこうした3Dプリンター導入の効果について「クオリティーが高く、試作時間が短く、しかも低コストでできる。いくつもの試作品を造って機能と安全性を検証して、より優れた製品を作ることができるようになった」と話す。

 それにとどまらずムッシュ・マグニといった新たな製品まで作り出したのだから、大きな付加価値を作り出したことになる。

 

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3Dプリンターで生み出された製品「ムッシュ・マグニ」

 

 しかも3Dプリンターによって、製品のリスク分析などを明確するなどリスクアセスメントを徹底させることで、より安全性の高い製品作りを可能にした。こうした取り組みが評価されて、14年には経済産業省によって製品優良対策優良企業に認定されている。